つなぐ会とは

  日本音楽の研究と教育をつなぐ会(略称 つなぐ会)は、日本音楽の将来のための教育の役割を重視し、研究者がコーディネーターとなって、演奏家、学校、教育行政のネットワークの構築をめざしています。

  これまで[教員の養成・採用・研修][専門家の活用][幼小教育の連携]の3チームを組織して研究と議論を重ねてきました。これまでの活動を踏まえ、3チーム横断による[しょうチーム]を新設し、伝統音楽の表現の特質や伝承方法、日本語と音楽の深い関わりなどの視点から、音楽教育における「唱歌を用いた指導の在り方」についての研究を進めました。その成果として、平成29年度にDVD付教材「唱歌で学ぶ日本音楽」を作成しました。今後は、この教材が広く活用されるよう、ワークショップを企画、実施していく予定です。

  なお、本会の合同研究事業は、平成27~30年度伝統音楽普及促進支援事業に採択され、文化庁の支援を受けて取り組んでいます。

2022年10月17日月曜日

2022年度日本音楽の教育と研究をつなぐ会ワークショップ 唱歌で学ぶ日本音楽「唱歌を活用して伝統音楽を学ぼう―箏曲―」の報告

2022年度 日本音楽の教育と研究をつなぐ会ワークショップ

唱歌しょうがで学ぶ日本音楽」 

唱歌しょうがを活用して伝統音楽を学ぼう-箏-

日時 : 2022年8月19日(金)
14001630
オンライン : ZOOMウェビナー

 当会では、平成29年度文化庁委託事業として作成したDVD教材『唱歌で学ぶ日本音楽』(2019年に音楽之友社より出版)を学校現場で活用していただき伝統音楽にかかわるよりよい音楽教育実践が進められることを願って、平成30年より雅楽、長唄、祭囃子、能楽のワークショップを企画開催して参りました。コロナ禍により箏曲のワークショップ開催を見送っていましたが、このたびオンライン形式で開催し、110名の方にご参加いただきました。

 このワークショップについては、音楽之友社『教育音楽』(小学校・中高版)11月号に紹介記事が掲載される予定です。

【ワークショップ内容】

1. 中学校の授業事例 杉浦崇文(静岡大学教育学部附属島田中学校教諭)

  • 生徒の現状
  • 3時間の授業の様子《さくらさくら》:2人1組。弾かない人は唱歌を歌い、拍をとる。中国の古箏、越天楽の唱歌
  • 唱歌についての生徒の気付き
杉浦崇文氏

2. 実演家の立場から 平田紀子(生田流箏曲演奏家)

  • 小学校2年生の授業の様子《なべなべそこぬけ》
  • 大学生の授業(2020年度はエア箏でオンライン授業)の様子、唱歌について学生の気付き
  • 《六段の調》冒頭解説及び実演:唱歌でないと伝えられないことについて曲との関連で具体的に説明。
  • つなぐ会を通して感じたこと:学校の先生との連携が大切
平田紀子氏

3. 小学校の授業事例・教材の活用法 長谷川慎(静岡大学教授・生田流箏曲演奏家)

  • 自身の体験から:唱歌で覚えた音楽と、楽譜で覚えた音楽の違い
  • 小学校での実践例
  • 実践に関わった教員養成大学の学生の感想
  • 学習指導要領における日本音楽の扱い
  • 篳篥奏者の唱歌についての考えの紹介
  • DVD教材&テキストの紹介
    • 日本音楽の教育と研究をつなぐ会[編著] 徳丸吉彦[監修]『唱歌で学ぶ日本音楽(DVD付き)』東京:音楽之友社 2019年。
長谷川慎氏

4. 参加者からの事前質問へのお答えコーナー 長谷川慎・平田紀子

 参加者からの質問は申込時に募り、ワークショップの中で講師が答える形をとりました。教材や調弦、指導法や評価方法、実演家の協力方法などさまざまな質問がありました。爪が取れないように「のり」や「テープ」を使う工夫については、無理に爪を押し込むことによる破損を防ぐ効果もあるとのことで、多くの参加者に有効な情報となったようです。回答の多くが、楽器に親しむこと、音色を味わうこととの関わりを重視したものとなりました。 

質問に回答する長谷川慎氏(右)・平田紀子氏(左)


5. 総括コメント 薦田治子(武蔵野音楽大学教授・前つなぐ会会長)

薦田治子氏

【終了後のアンケート】

 62名がご回答くださいました。以下にアンケートで寄せられた参加者の声をいくつかご紹介します。

  • 唱歌とはどんなものか、初めて知りました。授業でどう活かしていくか、考えようと思っています。(小学校教員)
  • 箏を指導する時に番号でしかやったことがなかったので、唱歌でも指導してみたいと思いました。唱歌を用いることで音楽のニュアンスなども一緒に学べるのが素敵だと思いました。(小学校教員)
  • これまで、なぜかドレミの階名で指導してきたことに違和感を感じていました。しかし、口唱歌を使えば、リズムの雰囲気まで感じ取ることが可能であることが分かりました。最後のまとめのお言葉で、日本語の延長に唱歌があるということがとても心に響きました。(小学校教員)
  • 口唱歌について、学習指導要領での位置づけも確認できた為、これまでに御囃子・御神楽保存会で得た自身の経験に確信を持つことができた。(小学校教員)
  • 全国の先生方が、何に困り、どう解決するか試行錯誤していることを知り、その質問に答えていただいた場面が印象に残りました。授業で唱歌を扱った時、生徒が、なぜか口になじむんですよね、と言っていたのが忘れられません。(中学校教員)
  • 西洋音楽を学んできたので楽譜に頼りがちだが、口唱歌は音のニュアンスが伝わるようになっているので有効だと感じました。小学校ですぐに活かせる「茶つみ」やわらべうたが非常に役立ちました。(小学校教員)
  • 「身体の使い方や息づかいも演奏の一部。まず耳から入るのが効果的、楽器の前に歌うことから。」というのも洋の東西を問わず音楽教育に共通していて、深く心に留めることができました。(大学教員)
  • 子どものころから耳と身体で音楽を感じられる学習環境があると、日本の音楽環境も変わってくるのではないかと思っています。子どもたちにもっと自国の音楽を日常的に触れてもらうことによっても耳が育つのではないかと思っています。(実演家)

1. ご自身の所属専門分野等について教えてください(回答61名)

2. ワークショップの内容はいかがでしたか?(回答62名)

3. 唱歌による指導の学びの場として役立ちましたか?(回答62名)

 今回のワークショップが指導の学びとして役立ったという回答をたくさんいただきましたが、参加者の様々な質問からは指導における率直な悩みがうかがえました。伝統音楽の実践のためにはまだまだ解決すべき問題があることを感じます。ご紹介したDVD教材が、先生方の指導の一助になれば幸いです。

 多くの方にご参加いただき、ありがとうございました。